東京地方裁判所 昭和44年(ワ)6597号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕<証拠>により、原告ら主張の日に被告所有の第一種原付自転車(加害車)を訴外原田作三が運転中に交通事故を起したことが認められるところ、右事故に関するその余の判断に先立ち、まず右事故に関し被告が自賠法三条ないし、民法七〇九条の責任主体に該るかどうかにつき判断する。
<証拠>によると、次の事実が認められる。
被告は当時左官の仕事をしていて、加害車を所有してその仕事の往き帰りにこれを使用していたが、本件事故の一、二週間前から訴外有限会社盛喜堂の仕事を請負つていたため、当日も加害車に乗つて右会社に赴き、これを右会社前の空地に置き鍵は自ら保管して仕事をしていたところ、たまたま右会社の従業員で運転免許を有する訴外下城から、しばらく用を足したいから加害車を貸してくれとの依頼があつて、これを承諾し同人に鍵を渡した。ところが、下城がこれを使用中わずかの時間加害車に鍵をつけたまま会社前に置いて会社内に入つている間に、同じく同会社の従業員であつて運転免許を有しない訴外原田作三が、被告および下城に断りなく加害車を乗り出し、よつて本件事故を起した。被告と下城および原田との関係は、単に仕事先の従業員として顔を見知り挨拶を交わす程度で、それ以上の人的関係はなく、被告が下城に加害車を使用させたのもこれが初めてであり、原田に使用させたことはなかつた。
以上のとおり認められ、これに反する証拠はない。
右事実によれば、被告が加害車を所有し、これを下城に貸し与え同人がこれを使用する限りでは、被告がなお加害車に対する運行支配を有しこれを失なわないというべきであるが、右のとおり被告と原田とは単なる顔見知り程度にすぎず、原田と下城とは会社の同僚ではあるが、原田は無免許なのであるから、同人の車乗り出しは被告の意思はもちろん下城の意思にも明らかに反するものと推認できる。しかも、被告が下城に加害車の使用を委ねたのも、長期間の包括的な管理を委ねたのと異り、極めて一時的、個別的なものにすぎないのであるから、このような場合には、原田の右無断乗り出しによつて、被告は加害車に対する運行支配を失うに至つたものと解するのが相当である。
よつて、被告は本件事故当時運行供用者たる地位を失つていたのであるから、自賠法三条の適用を求める原告らの主張は失当である。
次に原告らは、本件事故が被告の加害車に対する管理上の過失によるものと主張するが、右認定のとおり、加害車に鍵をつけたまま放置したのは下城であつて被告ではなく、他に被告の過失を肯認すべき資料はないから、右主張もまた失当といわざるをえない。
(坂井芳雄 浜崎恭生 鷺岡康雄)